Webは使わない

この仕事(翻訳)してると一に調べ物、二に調べ物、三に調べ物、そして四に調べ物。
とにかく調べ物しないと仕事のスタート地点にさえたどり着けないっていう。で、調べ物に関しては、やっぱり最近はWebを使っての調べ物が主流。もちろん図書館を使ったり、関係省庁とか企業の方に連絡したり、っていう方法もあるけど、やはり主流はWebっていう。
でWebでの調べ物、当然普通の人もググったりとかそういうのやってるだろうなーと勝手に思い込んでいたのをぶち壊した一つのイベント、って感じの話。
この話自体は3,4年くらい前の話です。

知人の話なんですが。
少しマイペースでスローライフな知人、TNさんがうちの車に乗っていた時に聞いてきた。何でもMP3をそのままCD-Rに焼いてCDデッキで再生しても音が出ないのだという。まあそりゃそうだ、デッキがMP3対応じゃなきゃ音なんて出るわけないんだけど、彼女はそれを知らなかった。車の運転中だったし、説明するのがちょっと面倒だったので「MP3だとPCとかiPodみたいなプレイヤーでないと聞けないですよ」と答えたのだが、それに対して「え。じゃあみんなどうしてんの。普通に売られてるCDからは音が出てるじゃん。あれはMP3なんでしょ?」と聞いてきた。市販のCDデータはMP3というデータ形式ではなく、異なる形式のものだから、MP3を普通に聞きたいのならMP3からちゃんと通常の音声で聞けるデータに変換してCD-Rに入れれば聞けるはずです、と答えた。え、なんか面倒、どうすればいいの?と聞く彼女に、適当なソフトを使えばできるはずです、とまた答えた。

元々MP3データを抜き出して(どっかから引っ張ってきたのかもしれないけど)CD-Rに焼けるのであれば、適当にウェブをさらってソフトを手に入れてあーだこーだはやってるんだろうな、と判断しての答えだった。それに対して彼女は、「ソフトってどこでもらえるの」と聞くので、「適当にウェブで見ればあると思いますよ」と返答。「ウェブで、って?」「ウェブで検索してソフトを探せばあるはずです」だんだんこの辺りで自分も面倒になってきたし、ちょうど狭い道を通行していて対向車が来ていることもあって、投げやり気味になってしまったのは反省なんだけど、とにかくウェブで探したらいい、と答えた。「検索ってどうするのよ」と彼女。対向車のドライバーがまた地元の人間じゃないらしく、変なところで止まっている。そこで止まられてもすれ違えないんだけど。若干イラつき気味に「GoogleとかYahooとかでMP3・変換・ソフトとか適当な語句で探せば見つかるはず」と答えた。このイラつきはあくまで対向車に向けられたもので、彼女に向けられたものではないことを断っておくけど、でも正直に言うと、彼女にも少しはイラついていたかもしれない。それに対して彼女は「はー、面倒。だからインターネットって嫌いなのよねー」と一言。でもこの一言がいろいろな示唆を含んでいるように思えて、自分にとってはイラっと来るより逆に興味深かった。

まず、彼女はウェブの使用を面倒だと言っている。予想するに、ウェブに接続していろいろな情報を検索するというインターネットを使用する一連のプロセス自体が面倒だと感じているんだろうと思った。彼女は自分のE-Mailアドレスも持っていてそれも活用しているようだけど、ウェブに関してはメールを使用することと、与えられた情報の操作、言わばあるサイトにアクセスしてこれを見る、といった受動的なウェブ使用法のみでここまで来ているのかもしれない。だから受動的使用しかしていない彼女にとって、ウェブを多方面で活用している人にとっては当たり前中の当たり前的動作である「ググる」という基本メソッドが、面倒くさくてかったるいものになっているんだろうなーと思った。
たとえば自分だったら、まあ仕事柄ウェブがないと路頭に迷ってしまうわけで、何がしかわからない事柄があるとまずは検索、検索、そして検索。あがってきた情報をきちんと検討の上に取捨選択して、信憑性の高そうなものをピックアップし、その後それらの情報の裏づけを取る、っていう一連のプロセスを経るけど、それはまあ自分としてはごく自然なことである。あまり良くない傾向だとは思うけど、自分がやっているからほかの人も自分と同じくらいウェブを活用しているのだと思っていた節が自分にはあった。だけどTNさんと話をしていて、そうでもないんだということがわかった。もしかしたら、ウェブをあまり使わない一般人のほうが多いのかもしれない。あともうひとつの傾向として、PCの操作自体が得意でなく面倒くさいと思っている人にとっては、ウェブの使用なんてのはそのさらにまた上の面倒くさいことなんだろうな(キーボードを叩くっていう行為もめんどいかもしれない)とも思った。車の操作を好きでない人が、地図を使ってドライブすることを好きでないのと同じだ。

彼女との会話を通して、少し前にあった出来事を思い出した。それは知人のHSさんのことである。彼女はiPodをほしがっていて、どうやら彼女的にはiPodというのは普通の家庭用CDプレイヤー等と直接接続してCDとかを録音できると思っていたらしい。そこで僕に聞いてきた。「iPodってCDを録音する時にはどうすればいいの?そのまま何かに接続すればいいの?」ちょうどその頃にiPod Classicを購入した僕にとってはタイムリーな話題だったので、iTunesというソフトをダウンロードして使うこと、基本的にPCがないと何もできないことやその他音楽だけでなく動画とかも見れるよ等、いろいろと教えた。そして彼女の答えは、「はー。PCとかソフトとか使わないとだめなんだ…。どこでもらえるの?そのソフトとか」だったので、インターネットでダウンロードするんだよと再度説明した。「うーん、やっぱり面倒なんだねー」と彼女。そこでふと気になって彼女に聞いてみた。ウェブとかって使わないの?いろいろ便利なんだけど。彼女が言うに、ウェブは個人情報がじゃんじゃん流布してしまう気がして怖いらしい。だからAmazonも楽天も価格.comも使わないし、最近の売れ行きの本とかCDとかをインターネットでチェックするのみで、実際に購入するのは実店舗なのだという。インターネットでクレジットカードなどを使用して買い物なんて言語道断横断歩道だよ!と力説されてしまった。
(*そんなHSさんも今はiPadにiPhoneを所持していて、現在はWebを結構使ってると思われる…けど、逆に言うと、iPadやiPhoneやらがWebの使用に関する敷居を低くしたっていうのもあるかもとは思う。)

TNさんとの会話でこのHSさんとの会話を思い出した。TNさんとHSさんの考え方の方向性は異なっているけれど、二人に共通して言えることは、二人ともウェブの使用を面倒だと感じている点。TNさんはウェブを使用すること自体に面倒くささを感じていて、HSさんはウェブを使用するために発生するかもしれないリスクによりウェブを使用することに面倒くささを感じている。だからといって僕は、こいつらまったく情報リテラシーがなくてだめだな時代の波に淘汰されてしまえ、なんて考えることも感じることもない。彼女らの考えはそれはそれで尊重するし。ただ、自分でいろいろ情報を集めてそれを分析し、そこから自分に必要なものを拾い上げていくという一連のプロセスを発動することで、人に聞かなくても自分で答えや情報を得ることができるのだという利便性は感じてほしいな、とは思う。何でもウェブに頼ってウェブウェブ万歳!のような態度もアレだけど、要はツールとして自分自身がウェブを使っていくことが必要だとは思う。あくまで使い手はこちら側、ウェブはツール。

で、後日、このエントリのブクマコメントにこういう指摘があった。

私にはid:transniperさんが説明不足なように感じる。/分からない人のレベルにあった会話をすべきではないかな。/まあ、教師じゃないのだからそこまでする必要は無いと言われれば、その通りだけれど。

うん、まったくもっておっしゃるとおり。TNさんに対しては説明不足だったと思っている。ファイルを引っ張り出して焼けるんだったら、特にこういうこといっても問題ないだろうと思っての説明だったんだけど、よく考えてみれば彼女のレベルにあった会話・説明をすべきだったなとは思った。だから「説明がわかりにくくて申し訳ないんだけど」とは断ったんだけどね。ただ、その時の状況として、自分は車を運転していて狭い道で対向車とのすれ違いに格闘してたのもあって、もうちょっとその対向車をやり過ごすまで質問するのを待ってくれてもいいのに、と思ったのも事実。

でもね、最初に書いたように、彼女はとてもマイペースなお人でして、わからないよわからない、教えてよ!という割りに、こちらが知っている情報を与えたら与えたで「はー面倒。だからインターネットって嫌いなのよねー」と。まあ大人だったらまずはありがとうじゃないの?とも思ったんですが、まあこれはエントリの趣旨と関係なくなっちゃうので書きませんでした。
それからブクマコメントにて、複数の方々より、CDのデータはWAVEではないよ、というご指摘を頂き(ありがとうございました)、これを受けて、きちんと自分で調べてから、再度彼女に連絡を取って説明を試みた。ファイルと拡張子についてや関連しそうなソフトなどを、自分なりに頑張ってわかりやすいようにかいつまんで説明してみたところ。
「うーん。やっぱり面倒くさい。インターネットは面倒だということがわかったよー」
ということで、まあ、その、うん。

TNさんのその後
で、「ウェブとかインターネットとか、はー面倒くさい」と仰っていたTNさん。その彼女が、「大躍進」を遂げたらしい。
あそこまでウェブを使ったりすることを嫌がっていた彼女だったが、何とこのほど自分でGoogleやYahoo!などを使いながら情報を集め、フリーソフトをダウンロードし、自分で何とかMP3ファイルを適切なファイル形式に変換してCD-Rに焼いたとのこと。彼女がうちの奥さんにたまたま会った時にその様子を伝えたらしい。「私にしては大躍進よ、まったく。疲れた疲れた」と、最後までツンデレっぽい姿勢を崩してなかったよ、とはうちの奥さんの談。
それを聞いて僕はうなってしまった。感嘆のうなりと自分の至らない説明に対する罪悪感のうなりだ。僕の予想では、彼女はウェブなど使わずに他の誰かに頼むか、さっさとあきらめるんだろうなあなどと思っていたのだけど、どうもそうはならなかったらしい。いろいろと興味があって気になった僕はうちの奥さんに協力してもらって、彼女がどうしてウェブを使ってみようと思うに至ったのか、メールで聞いてもらうことにした。返信メールで彼女は、こう書いていた。

二つ理由があるなあ。まず、説明の仕方がさー、簡単すぎてムカついたんだよねー。インターネットで調べてソフトをダウンロードして使えば分かるとか言われても、調べ方が分からないしソフトとかも何のことだかよく分からないしねー。あとはやっぱり最近はインターネットが相当普及してるみたいで、私自身も結構気にはなってたんだよね。時代に置いていかれる、みたいな。だから悔しくなってやってみた。ちゃんとできた。自分で笑えたよ。でも、面倒くさいってのは変わらないなー(笑)。

説明の件、申し訳ございません。
確かに(ブクマ等でもご指摘頂いたとおり)説明不足ではあった。でもこのメール、またもいろいろな示唆を与えてくれているようでとても興味深かった。
まず、「インターネットで調べてソフトをダウンロードして使えば分かると言われても、調べ方が分からないしソフトとかも何のことだかよく分からない」という言葉は、初心者に物事を教えるという点においてとても重要な視点を与えている気がする。基本の基本、入門の入門、各用語の定義とかからわかりやすいようにきちんと説明しないと相手には伝わらないのだ。自分にとって既知の事実でも、相手(初心者など)にとってはそうでないというケースは非常に一般的。したがって、相手の立場に立って考えて教えないといけないという圧倒的に基本中の基本事項が自分には欠けていた。ある程度ウェブで情報収集をしたりいろんなツールやサービスを使ったりしている人間にとっては基本事項である「インターネットを使って物事を調べる」という行為は、普段インターネットを使わない人たちにとってはかなり漠然としてよく分からないものとして映っているのだろう。よく考えれば分かる話だけど、教えるというからには、そういう相手側の事情をきちんと考慮する必要があるということを再認識する非常に良い機会となった。

もう一つおもしろいなと思った点は、彼女自身もインターネットについては気になっていた、という点。時代に置いていかれるかも、とも言っているし、それなりに気になるものだったらしい。今回彼女が、今まではやったことのなかった分野に手を出した直接的な動機は「悔しさ」ではあったものの、インターネットを実際に使用してみて自分のやりたいことに役立てるという新たな世界を垣間見れたのは良いことだと思う。ただ単純に興味のある点として、インターネットに興味があるものの手を出せないでいる人たちにとって、インターネット側へ入っていく時の垣根は相当高いものなのかな。個人差はあるだろうけれど、TNさんにとってはそこそこ高かったのかも。もちろん目的とか必要性、または好奇心というものがあれば、それなりに使わなければいけないとは思うけど、そうでない人(もしくはIT関連が苦手だと感じている人)にとってはその垣根を越える動機とか機会、きっかけはなんだろうということに興味を覚えた。そこのところが要は「金脈」たり得たりするのかもしれない。
ただTNさんは最後に、面倒くさいってのは変わらないなー、と書いている(相変わらず)。なぜに面倒と感じるのか。やはり、そこには「自分の好みではない方法を使用する必要がある」という点が隠されているのかもしれないな、と思った。もしくは、自分が慣れていない方法を使わなければいけない、という点。調べてツールを持ってきて実行に移す、という一連のプロセス内に、自分がやったことのない行為がたくさん存在する場合に、面倒だなーと感じるのかもしれない。

で、だ。このエントリをずらずらーっと今の時点で読んでみて、やっぱりこの世界は日進月歩だなーと思った。っていうのも、このエントリを最初に書いたのは確か2009年位なんだけど、そのころと比べたら、インターネットを使うことに対する障壁ってだいぶ低くなってる気がする。やっぱりスマフォ、そしてタブレットの普及が大きな要因なのかなと。その反面、インターネットに対する理解をきちんと持たないままネット上でいろいろと悪さを展開してそれが普通に露呈しちゃうみたいなことも多くなった。

というわけで次のワールドカップの頃とかってどうなってんのかなーなんて思ったり。

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4 thoughts on “Webは使わない”

  1. なんにも知らない人に説明するのって難しいね。僕も以前サポート系コールセンターで働いていて、「画面の右下の方に確定って書いてある押せるところが出るのでクリックしてください」といったら「でません。わかりません」というので、「今画面の下の方には何がありますか?」ときいたら、「画面の下には灰皿があります」って言われちゃったよ。

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    • >Tomguitarbkeさん
      確かに難しいっす。特に、物事の概念を教えたりする時ってほんとうに難しい。
      しかし「画面の下には灰皿があります」には笑ったよ、ハハ。

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  2. 私なんざそういうものを教える相手が高齢者なんで常に鍛えられてますが。
    質疑応答が車内だったことを考えると説明が悪いと言い放つ人もどうかと思います。
    母の場合、質問があれば紙にメモ(紙に!)して私の帰省を待ち、解決法を眺めて何かしら習得するようです。
    たまに教えた心当たりのないスキルを易々と発揮されると逆にぎょっとしますが(苦笑)
    PCがあってネット環境がある「その場で」さらさらこなせる人っていうのが一番の教材なのかも。
    そこで試行錯誤すると相手が混乱するのは必至です。

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    • >ふわもこさん
      「紙にメモ」ってすごいですね。でもそれだと確実に何が知りたいかが忘れずに残るのでいい方法だなー。
      何かこういうのって「やってるのを横で見て盗め」みたいな部分もあるのかもしれないすね…

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