ジャケ買いなんて言葉、多分今の若い人には通じないんだろうな。
僕が音楽に目覚めた頃、世の中の音楽媒体はカセットからCDへ移った頃で。その頃新しもの好きだったうちの父親がコンポを買ってきて、そこに付いてたCDプレイヤーが始まりだった気がする。なので本格的に音楽に目覚めた高校の頃は、基本的にCDが音楽の入口になり、色んなアーティストのアルバムをCDで買ってきた。当時は今のようにインターネットなんてなかったから、音楽関係の情報はテレビかラジオ。もっぱらFMラジオだった。テレビは流行りの邦楽チャートやランキングばっかりやってたので、そのへんにはあまり興味なかった。でも深夜にやってたBeat UKなんかは大好きでよく見てた。洋楽メインだったから。しかも当時は90年代初頭、なのに70年代や80年代の洋楽ばかり聞いてた。あの頃の音楽はいい曲がいっぱいある。まあどの時代でもそうなんですが。FMで好きなアーティストの曲がかかると、カセットに録音して聞いてたりもした。持ち歩きにはカセットをウォークマンで聞くっていうのが基本スタイルだった。CD版ウォークマン(ディスクマン)ていうのとか、その後に出てくるMDとかもあったが、基本はカセットだった。CDショップの試聴コーナーにずっと入り浸ってたり、テレビのCMなどで一瞬流れてた曲を必死こいて探したり。とにかく当時はいろいろアナログだった。
今みたいに何でもYouTubeでチェック、なんてことは当時はできなかったので、もちろん、陳列されているCDの中身を聞いてから購入、ということもできなかった。新しいアーティストとの出会いも今ほど気軽ではなかったし、とにかく音源を聞くにはCDを聞くしかない、みたいな感じだった。クラスメート同士でCDを貸し借りしあったものだし、とにかくCDショップにはよく通った。Tower Record、タハラ、HMV。大体この三店で欲しいものは手に入った。懐かしい時代。今はもうCDショップなんてめったに行かない。ていうか、ほぼ完全に見かけなくなった。
CDを買う時、もともと欲しいアルバムや新譜であれば普通に買っていたけど、同アーティストの他のアルバムを購入する場合、CDジャケットのデザインは大きな購入検討ファクターだった。中身をチェックすることができないので、そのジャケットで判断するしかない。その自分の勝手な想像や妄想に基づいた判断と実際の音がどれだけ近いかっていうのは、家に帰ってCDをセットして再生ボタンを押すまでわからないんだけど、ジャケ買いをした時はいつもいつもドキドキしながら耳を済ましていた。自分の感性とマッチしたときは鳥肌が立ったし、そうじゃなかったとしても、こういうアーティストもいるんだな、っていう新しい引き出しを作ってそこにしまっておいたものだった。
懐かしい。今日日、そんな経験してない。アーティストの名前を検索すれば全部教えてくれちゃうウェブの功罪か。ウェブはウェブでまた自分に新たな音楽を楽しむスタイルを提供してくれたのでそれはそれでいいんだけど。
そのジャケットデザインだけを見て、今まで聞いたことのないアーティストのCDを買う、っていうのがいわゆる「ジャケ買い」である。ジャケ買いをするには、やはりジャケットのデザインがどれだけ個性的で目を引くか、ジャケットのセンスが自分のセンスと合致するか、合致しなくてもどうしてもこのデザインのジャケットをまとったこのCDを買ってみたいと思えるか、そういうような要素で決まる。そして家に帰り、パッケージをやぶり、CDをセットして、再生ボタンを押す。その後、これは!と思うか、これはちょっと違うわ…と思うか、なかなか良いじゃんニヤリ…となるかは自分の感性がどれくらい新しい音楽に対してオープンかどうかで決まる。
今までのジャケ買い人生の中で、ジャケットのデザインそのままで今でも好きなアーティスト、ジャケットのデザインが良い意味で自分の期待を裏切ってくれたアーティストを挙げてみる。
まずはSaint Etienne。この一曲目にはぶっ飛んだ。それまで聞いたことのない静的かつ動的なグルーヴに一発で虜になってしまった。
それがこのWood Cabin。
マット・ビアンコのボーカルだったBasiaのこのソロアルバム。なぜかマット・ビアンコのことも知らなかった高1の時にTower Recordで見かけて買ってしまったが、これも一曲目で完全大人のグルーヴにやられた。この曲の良さがわかるようになるにはその後まだまだ時間がかかるんだけど、とにかくピアノとベースにやられてしまったのを懐かしく思い出す。
ASIAはどのアルバムもジャケットが美しくて、どうにもこうにも買わなくてはならない、という気にさせたバンド。ジャケットのセンスと音の雰囲気がとてもマッチしてて震えたのを覚えている。
Aで始まってAで終わるアルバムタイトルが多い(てか全部そうだったっけか)。
…っていうようなことを、この曲を聞きながら思っていた。
これが本当の今週の一曲。
HAIM – Want You Back