昔けっこうあった内職詐欺の話。長い。
引っかかった経験あるんです、これ。今思えば「何やってんだよ」ってことになるんだけど、当時はなんというか、引っかかっちゃったんだよなあと。若かったのでしょうか、それとも一生懸命過ぎたんでしょうか。
とっかかりは、普通の求人情報誌だったと記憶している。当時はまだブロードバンドが出始めた頃で、バイト探しなんかはまだ紙ベースだったと思う。スマホもなかったし、ウェブでバイトや仕事を探すっていうのはまだまだ先の話だったはず。当時、バイトはすでにやっていたんだけど、家庭の事情等もあって家で働けたら最高だと思っていてそのあたりの仕事を探していた。まあご多分に漏れずそのへんの話は胡散臭いものが多いというのを知るのはもう少しあとのことだったので、その求人情報誌に載っていた「家で働いて楽に稼ぐ!」みたいなチンケな釣り言葉に見事に釣られてしまったんである。なんとまあ。
まあもうほんとによく考えれば見破れるような求人広告ではあったんだけど。「PCの資格を取って、家でラクラクお仕事、自分の時間を保ちながら効率よく稼ごう!」みたいな言葉が踊っていたのを覚えている。正直、少し胡散臭かった。でも若かったし経験もなかったため、とりあえず電話して話だけでも…と思い、電話してみた。応対はとても良く、印象も悪い感じは全くしなかった。とりあえずPC関連の資格を取って、データ入力やプログラム、はたまた翻訳(!)に活かして自分の好きな時間帯に働いてきっちり稼ぎましょう、みたいなことを言われた。
実は高校を卒業してしばらくして、近所のソフトウェア開発会社でデータ入力のバイトをしていたことがある。ブロードバンドが一般的になる少し前だったので、インターネット自体は存在していたけど、それほど普及しているわけではなかった。したがってそこの会社でのデータのやり取りは基本、フロッピーの手渡し。データ入力と言っても住所録だの何かのリストだのの入力ではなく、プログラム内のコメントをリストアップしたりするものから手書きの回路図をWORDで再現したり、フローチャートをエクセルで作り直したりといった多岐に渡る仕事だった。時給はそこそこだったけど、スピードを上げればそこそこ良い仕事にはなったし、WORD・EXCELの使い方はそこでみっちり修行したように思う。その後のPCスキルにものすごいプラスになった。一年くらいでその会社が潰れてしまって辞めたと記憶している。
という背景もあったので、資格と言われても、多分楽に取れてしまうかもななんて思っていた。とりあえず担当者をおつけしますので、今後のサポート含めよろしくお願いします!ということになり、こっちは直ぐに仕事に入りたかったけど、担当者と電話面接をした。電話面接で一通りのPCスキルについて聞かれた。取得する予定の資格はMOUSE検定で(今は別のものかな)、担当者いわく、非常に難関ですと。ですから、まずはうちの教材を購入していただいて、しっかりと受かりましょう、と。そして受かった暁には、月収25万をまずは目指しましょう、と。というようなことを言われた。
で、やはり「教材」とやらが気になる。「教材買わないとダメですか?教材なしでも自分で勉強して受けようと思うんですけど」と言うと、「そうですね、非常に難関なテストとなりますので、私共の提供させていただく教材を導入して、きちんとパスするということが必要になってくると思います、受ける以上はしっかり合格しないとですし、教材の代金はその後に入ってくる仕事で二週間位で相殺できるはずなので、実質プラマイゼロです」と担当サポーターとやらはまくしたてた。まあじゃあ買うのは良いですけど、値段はいくら位なんですか?と聞くと、その金額なんと53万ほど。当時自分の乗っていたポンコツシビックよりお高い。値段を聞いてやめようと思ったのでそのことを告げようとすると、すかさず「値段がネックですよね?皆さんそうおっしゃいます。でも、お仕事が始まってしまえばすぐにペイできます。それだけの仕事量が入ってきますし、報酬も確実ですから」と来た。ここで止めておけばよかったのだが、仕事についての話を聞いてみた。仕事は大型クライアントを多数抱えており、人材が足りなさすぎて相当困っているのだという。担当サポーターとやらはそこで大手企業の名前をポンポン出してきた。そしてメールで仕事事例のドキュメントも送ってきた。仕事内容としては、住所録の入力、ビジネスドキュメントの作成、会議で使用される営業・マーケティング資料のパワポ作成、スライド作成など、いろいろなものがあった。果たして大手企業がそういったものを外注するか、そして外注する際に在宅ワーカー人材派遣会社みたいなところに頼むのか、という疑問があるのだが、そのときはあまり思い浮かばなかったと記憶している。そして担当サポーターとやらは、かなり具体的な仕事の話をしてきた。週何日・何時間働いて、これだけ稼いでいる人が実際にいるので、電話を代わりますという。電話口で代わったその女性は、まあサクラだったんだろうけど、自分が今どれくらい稼いでいるかをスラスラ話していた。確か、週3日働いて月20万稼いでいるのだ、と言っていたと思う。こうなってくると、だんだんこちらも揺らいでくる。とりあえず先に教材だけ送るので、中身を見ていらないと判断すれば送り返してもらってOKだからという担当サポーターとやらの言葉を承諾して、教材を送ってもらうことにした。
かくして教材が届いた。きちんとした、プラスチック衣装ケースの半分くらいの大きさのかなりもので、その中に様々なテキストブックや辞書類が入っていた。そして契約書も。この時点ではまだ購入していないので、開けてしまっても良いのかと思ったが、とりあえず開けた。ちなみにクーリングオフの説明はされていないし、中にもその説明書なるものは見つけられなかった。
届いたのを見ていたのではないかというくらいのタイミングで、担当サポーターとやらから電話が来た。ちなみにこのサポーターとやらはちょっとキャピキャピ系の女性。
「届きました?良かった!早速契約書を持ってきてください」といきなりのたまう。あとから考えてみると、兎にも角にもこの会社からするとまずこれを購入してもらわないと売上が立たないし、これを購入してもらうこと自体がこの商売の肝なので、すぐに契約してほしいのだろう。とにかくこれを契約して資格をとってからでないと仕事ができないと思っていたので、さっさと契約して資格試験に合格して仕事に入り、教材購入代金分を回収しようと考えていた。もちろんローンを組むということである。その場の電話で指示され、契約書を仕上げ、後日郵送した。電話を切ってすぐに直近の試験日を調べて、試験の予約というか手続きを取り、その日から資格試験対策を始めた。届いた教材で使ったのは、過去問題集のみで、他は手を付けなかった。というか初心者用のものが多く、開く気にもならなかったのが本音。担当サポーターとやらは、じゃあ試験勉強頑張って!合格したら教えてね!!と、なぜか契約したあとはタメ口になっていた。
試験は、ひたすら過去問を解くだけでさっさと合格してしまった。今から思うに、ターゲットは基本的に暇を持て余していて、PCなどはあまり触ったこともなく経験も少ない主婦層だったのかと思う。狙っていたシナリオとしては、仕事を餌に教材を売る→資格をとらせる→勉強に時間がかかりなかなか試験が受けられない→だんだん嫌になってくる→ほったらかす…そして有耶無耶に。という感じを狙っていたのかもしれない。試験までの間、担当サポーターとやらは、なんだかんだタメ口で電話をしてきた。休みの日は何してんの?とか、そういう話まで出てくる始末。およそビジネス臭はしなかった。友達感覚で接していたのかもしれない。で、合格の連絡をすると、「すごい!!はやーい!!この試験、そんな簡単には受からないんだよね。じゃあどんどん仕事入れていけるね、とりあえずスケジュール確認して仕事発生したら連絡するね!」というまさにフレンドリーな言葉を残して担当サポーターは電話を切った。三日後にまた電話がかかってきて、生真面目風な男性の声で、担当サポーターは一身上の都合により退職したため、自分が担当者として案件の紹介やサポートをしていきますと告げられた。まあほんとのところは、彼女の役割はここまでで、次の段階(カモを切る段階)の担当者はこの生真面目男なのだったんだろうと今思う。
求人広告を見て電話してから半年くらいで、ようやく最初の仕事にありつけた。内容は膨大な住所録のEXCEL入力。1件2円でそれが5千件くらいだったと思う。納期は確か一週間くらいだったか。初めての仕事で、一週間で1万円。とりあえず初めてだからと自分をなだめて、なんとか頑張って5千件打ち込んだ。確か弟のSOTEC(!)のデスクトップ(自分のラップトップより処理速度が速かった)を借りて仕事していたと記憶している。SOTEC懐かしい、ありましたよね。めちゃ疲れた。5千件入力。それで振り込まれたお金が1万円。そして2週間後に次の仕事も来たんだけど、今度はものすごい複雑な図表の入ったドキュメント処理というWORDを使った案件。これもページ1000円くらいで、15ページ。納期二週間くらいだっただろうか。ページごとの情報量・文字量が異常に多いため、かなり大変だった。この二件だけで、仕事量と報酬額がまったく割に合わないと思うようになった。この案件を納品後、担当者からの連絡はぱたっと止まった。こちらから連絡しても電話に出ないか、出ても「ここのところ、ご紹介できるスナイパー様に見合った案件がありません」ということを機械的に繰り返すだけ。まあこのころ見つけた新たなバイト(酒の問屋)が忙しくなり、まとまったお金が入るようになったので、連絡はしなくなった。それでも教材のローン、月二万円は払い続けていた。このときの感覚としては、まあしょうがない社会勉強ということで、みたいな感じだったと思う。それより、連絡が全く取れなくなったため、もう諦めていたという方が正しい。そして詐欺だったのだということは認めたくなかった。
それから一年くらいしたとき、自分が教材を買って仕事をもらっていたその会社の名前をネット上で見かけた。というより、ふと思い立って「在宅・詐欺」みたいなワードで検索したところ、さっさとGoogle先生がその情報をひっぱてきたのだ。悪徳商法関連の掲示板だったのだが、すべての相談に目を通した。そこで、自分もやはり騙されたのだと認め、そこに書き込んだ。まず消費者センター行け!相談員が外れでも諦めずに粘れ!ダメだったらまたここに書き込め!みたいなことをアドバイスされたのを覚えている。あと、毎月二万円をドブに捨てるっていうことですよ、とも言われた。意を決して自分の町にある消費者センターへ出かけた。ある程度の情報を揃えて持っていったのだが、相談者のおばちゃんは、会社名を告げた途端に「あなたで今週五人目よ…」とつぶやいたのが印象的。というか、結構多くの人が騙されていたのを知って少し安心した。その相談員はかなりちゃきちゃきな感じの人だったので、やれることをさっさとやってしまいましょう、と言われた。まずは信販会社から契約書を送ってもらってクーリングオフの説明があったかどうかを確認すること、銀行に行って抗弁の手続きを取り引き落としをストップすること。教材は会社に送り返すこと。その間に消費者センターから会社に連絡して、契約解除をとりつけるから、と言われた。ただこの会社、ネジ曲がってるからそう簡単に行くかはわかりませんけどね…とは言っていた。その足で言われたことをすべてその日中にやった。教材は捨ててしまっていたので、送り返すことができなかった。そしてその悪徳商法の掲示板に、そこまでの経緯を書き込んだ。その行為が実はあとになってネックとなる。
消費者センターから連絡が来たのは一週間後のことだった。「とりあえずクーリングオフを盾に頑張ったけど、あなた***っていうハンドルネームでネットに書き込みしてない?教材捨てちゃったって。だから今後の支払いはストップできたけど、支払った分は回収できないわよ。しょうがないけど」と言われた。さすが、敵もきちんとネットを見ていたのだ。でもそのハンドルネームと実際の自分をよくピンポイントで当ててきたなと今思う。まあそこで四の五の言ってもどうしょうもないので、それで納得して和解ということにしておいた。そして三ヶ月後くらいに、実際に会社から連絡が来た。契約は解除しますが、今後弊社の悪口をネットとかで言うのはやめてね、というような内容だった。
まあそういう話で、個人的には今思えば良い社会勉強になったと思っているけど、さすがにお金はちょっともったいなかったなと。まあ勉強代ということで。その時取った資格はその後何の役にも立ちませんでしたけど、自分のWORD・EXCELスキルはちょっと上がったということで納得しておいた。まあなんと言うか、詐欺っていうのは騙されていることすら気づかないとはよく言ったものだなあと思う。実際、本当に騙されていたんだなと思い知らされたのは、消費者センターに相談に行ったときだったから。それまでは、騙されていることにうっすら気づいていても、それを認めたくないという気持ちが強かった。詐欺というのは、人の性質を本当にうまく利用してつけこむ悪質な犯罪だな、ということがわかっただけでも大きな収穫…と思うようにしている。
詐欺には気をつけましょう。
なななんと! そんな経験があったとは。教材まず買ってくれ関係はたしかに怪しいな〜。僕も詐欺とまでは行かないけど、ブラックな仕事に引っかかったことは何回かある。
騙されたということに気づかないところがやはり詐欺…冷静になるとわかるんだけどねー。
Test
Testついに成功しましたね、良かったです。